クリティカル・シンキングとは、批判的思考とも呼ばれ、感情や主観に流されずに物事を判断する思考プロセスです。
このスキルを身につけることで、客観的な判断や決断ができるだけでなく、人に伝わりやすく、動いてもらいやすい適切なコミュニケーションができるようになります。ビジネスの世界でどんな時代でも活用でき、社会人としてライバルに差をつけるための土台となるようなスキルです。
批判的思考ってどういうこと!?
「そんなんじゃダメだ」とか「無理無理」って批判されちゃうの?
他人から批判されるということではないよ。
「なぜなのか?」「本当にそう言えるのか?」と出した答えに批判的に自ら問うという意味で批判的思考と言われているんだ。
本記事では、クリティカル・シンキングとはなにか・どのような手順で活用していくのか解説します。
【結論】クリティカル・シンキングとは自分の考えを常に疑う姿勢を持つ思考法
クリティカル・シンキングとは、感情や主観に流されない意思決定をするためのスキルです。多くの人は問題を解決しようとするときに、「今まではこのようにしたから」と、経験や知識をもとに考えるでしょう。
クリティカル・シンキングでは自分の習慣となっている思考パターンを意識し、よりよい方法を客観的な視点で判断していきます。思い込みや偏った考えを排除し、最善の解決法を得るための手段というわけです。
なぜ、クリティカル・シンキングを学ぶ必要があるのか?
過去の経験や知識から、すぐに答えを導き出せるならそれで良くないですか?
確かに、正しい答えを導き出せているならそれで良いよね!
でも、そうじゃない可能性があるってことだね。
なぜ、クリティカル・シンキングを学ぶ必要があるのか、詳しく見ていきましょう。
理由① VUCAの時代
VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況のことを意味します。
もともとは、1990年代後半にアメリカで軍事用語として発生したようですが、2010年代になってビジネスの業界でも使われるようになったようです。
1990年代以前の戦争は、国と国との戦いであった。参謀本部が作戦を立案し、現場の部隊が作戦を実行する。ビジネスも同様で、経営陣は経営戦略を立てて、現場が実行する。軍隊もビジネスに携わる企業も組織の形態はヒエラルキーであったと言える。
1990年代以降に発生したアルカーイダがアメリカ合衆国を標的として実行された数々のテロ行為をアルカーイダとアメリカの戦争と見た場合、以前のような「国と国との戦い」とは根本的に異なる状態であった。アルカーイダは国ではなく、組織のようだがトップが誰かはよく分からない。また、トップが作戦を立て現場が実行しているわけでもなく、アルカーイダの思想に同調した人たちが同時多発的にテロを実行している。このようなアルカイーダとの戦争のスタイルを呼ぶのにVUCAという言葉が生まれ、それに応じた新しい戦い方が必要になった。
ビジネスの現場においても、テクノロジーの進歩は急速であり予測は困難、世界の市場は不確実性や不透明性を増した状況となっており、不安定なビジネスの状況を表すのにVUCAが用いられるようになってきた。
引用:Wikipedia
Volatility(変動性)
変動性とは、さまざまな価値観や社会の仕組み、顧客ニーズなどが変化していくことを指します。現代においてはテクノロジーの進化により更に加速度的に変化が増しており、短期間で市場の状況が一変することもあります。
このように、めまぐるしく変化していくため、先の見通しを立てることができず、将来の予測が難しくなっており、不安要素の一つとなっています。
Uncertainty(不確実性)
不確実性とは、自然環境や政治、国家、制度などの不確実性を指します。地球の温暖化に伴う気候変動、また未知の疾病など、唐突に訪れる問題を予測することは困難です。
これらのさまざまな不確実な事象から、企業や個人でも将来の予測をすることが困難だと言われています。
Complexity(複雑性)
経済がグローバル化したことにより、ビジネスは複雑化しています。それもそのはずです。各国々では文化や習慣、常識やルールが異なります。環境が違うなかで、ビジネスは国境を越えて拡大させているのです。
グローバルなビジネス環境では、その国の法律や文化、常識などさまざまな要因が絡み合って、ビジネスを複雑化しているのです。
Ambiguity(曖昧性)
変動性・不確実性・複雑性が複雑に組み合わさることで、因果関係が不明で、前例のない出来事が増えていきます。
これは、過去の実績や成功例に基づいたやり方では通用しない、曖昧性の高い世界へと深く深く突き進んでいるのだということです。
理由➁ 破壊的イノベーションの脅威
破壊的イノベーションとは、既存の市場で提供されている価値を低下させつつ、新しい価値基準を市場にもたらすイノベーションのことを言います。
ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン教授(Clayton M. Christensen)が自著『イノベーションのジレンマ』において提唱した概念です。
破壊的イノベーションと聞くと、最先端の技術で既存プレイヤーを倒していくようなイメージを持ってしまいますが、それは、改善・改良によって生み出される「持続的イノベーション」にあたります。
要するに、技術革新が進んでいくと、ある地点から顧客が消化できる性能水準を超え、技術的に過剰供給となります。そして、その過剰供給となる状態が続いたまま更に既存顧客のニーズを無視した改良が続いていくと、ある地点から、性能が多少低下されていたとしても顧客が消化できる十分な性能を提供できる商品が登場し置き換えられてしまう事があるのです。これを破壊的イノベーションと言います。
これは一般的に、既存市場で優位にある立場の大企業が陥りやすい現象で、『イノベーションのジレンマ』と言われています。
では、なぜ優位な立場にある大企業が、性能を落としてでも顧客が消化できる性能水準におさえる決断をしないのか?その原因は以下の通りです。
持続的イノベーションによりシェアを拡大するたびに、その成功体験から、改善・改良をおこなうことが正しい判断であると思い込んでしまいます。結果、新しいことにチャレンジしにくい組織になってしまうのです。
特に、現時点でシェアトップにあるような既存事業を有する大企業は、それを脅かす新事業にはチャレンジしにくいのです。
経営陣にとっては、既存事業を脅かすような新規事業に手を出して、成功している既存事業を後退させるようなことがあれば、どうステークホルダーに納得させられるのかと悩み、決断しにくいでしょう。
現場レベルにおいても同じです。これまで技術革新を繰り返しおこない、会社の成長をリードしてきた技術者の方々にとって、あえて性能を低くするような製品開発はなかなか受け入れられることができないのは想像できるところです。
それでは、実際に「破壊的イノベーション」がどのような衝撃を与えているのか、事例を見てみましょう。
事例 アップル
破壊的イノベーションとしてアップルのiPhoneの事例をご紹介させていただきます。この記事を見ていただいている方でiPhoneをご存知でない方はいないでしょう。
ただ、iPhoneのどこが破壊的イノベーションなのかと疑問に思う方もいるでしょう。iPhoneといえば最先端の技術で次々と新しい機能を打ち出してきたことから持続的イノベーションと捉えてしまいがちです。
みなさんは、iPhoneが日本に初登場した2008年を覚えているでしょうか?発売日前から長蛇の列ができるほど話題を呼んでいました。私自身は列に並ぶことはありませんでしたが、日本中がザワついていた印象があります。
では、iPhoneは当時の携帯電話として優れていたでしょうか?
実は携帯電話の機能としては日本で販売されていた他社とそんなに変わらないのです。むしろ、当時NTTドコモで人気だった「N-01A」と比較すると、メインディスプレイやカメラの画素数などでは劣っています。
では、iPhoneは何が違ったのか?
それは、iPhoneが、「単なる携帯電話」ではなく、「携帯機能を含んだ小型コンピューター」だったのです。
みなさんは、写真を撮るときデジタルカメラを使いますか?外で音楽を聴く時にウォークマン(ちょっと古いかな^^;)を持っていきますか?ちょっとした調べものをするときにパソコンを立ち上げますか?
iPhoneがこれらの機能を備えたときは、各機能はどれもiPhoneが劣っています。デジタルカメラの方がキレイに撮影できるし、ウォークマンの方が小さく持ち運びできました。パソコンの方が処理能力が圧倒的に優れていたのです。
しかし、iPhoneの登場でカメラメーカーやオーディオメーカー、パソコンメーカーなど、あらゆる産業に大きな影響を与えたのです。
iPhoneが登場したときに誰が想像できたでしょうか?
これらの産業は、持続的イノベーションを繰り返し、よりキレイに、より小さく、より処理できるものを作ってきました。
そんな時に、携帯電話産業の新参者である「iPhone」に市場を席巻されてしまったのです。
既存市場の参加者にとって、「想定外の脅威」「不意打ち」「巻き添え」といった言葉がよぎります。しかし、「不意打ちだから仕方ないよね」では済まされないでしょう。テクノロジーの進化が急速に進んでいる現代において、こういった破壊的イノベーションは起きやすくなっています。
では、どうしたらいいのでしょうか。
破壊的イノベーションを受ける側にしてみると、「想定外の脅威」や「未だ見えてこない潜在的ライバル」をどう察知し、手を打てるかに尽きるのではないでしょうか。
アップルの事例のように、既存市場において既存プレイヤーと競い合っていたと思ったら、突然現れた新参者に市場を奪われてしまうといったことは、今後様々な市場で起こりうることです。
既存プレイヤーとの技術革新だけに目がいってしまうことなく、さまざまな角度で思考を巡らせることができれば、こういった脅威に対抗する事ができるかもしれません。
「今まではこのようにしたから」と判断することを止め、自分の考えを常に疑う姿勢を持つクリティカル・シンキングを身に付けることによって、この恐ろしい脅威に対抗できる人材になるでしょう。
理由③ 溢れる情報
みなさんは、普段どれほど情報に触れていますか?
現代日本人が1日に触れる情報量が「平安時代の一生分」「江戸時代の1年分」であることをご存知でしょうか。
それだけの情報に毎日触れていることにビックリしませんか。これは決して現代人の脳のサイズや働きが良くなったわけではありません。テクノロジーの進化によって変化してきた世の中の構造変化です。
情報量増加の大きな転換点は、「インターネットの登場」ではないでしょうか。世界に存在するデータや情報は常に更新され、指数関数的に増えています。
みなさんは、何か調べものをするときにGoogle検索を利用はすることがあると思います。私もよくググってます^^;
キーワードで検索しただけで無数の検索結果が表示されると思います。
大抵の人が1ページ目の最初の2~3個目くらいの記事を読んで調べものを済ませるでしょう。プライベートの調べごとならそれでいいでしょう。楽しくネットサーフィンできれば楽しく時間が過ぎていきます。ただ、仕事においては本当にそれでいいのでしょうか。欲しい情報は手に入るのでしょうか?(※ここではGoogle検索エンジンの性能の良し悪しは説いていません)
たまたま目に入った情報で上司へのレポートをまとめようとしていませんか?
情報が溢れているからこそ、自ら必要な情報を選択しなければ、目に入った情報を集めただけになってしまいます。
これだけ情報が溢れていると、ちょっとググればそれらしき情報を拾うことができます。特に最近では、ChatGPTといったAIを活用した情報収集ができる時代においては、無数にその答えを出してくれるでしょう。なんとなくそれっぽい情報が収集できると、その情報で理論を構築したくなってきてしまいます。
しかし、本来論じるべき内容が違うようであれば、このググっていた時間の大半は無駄になってしまうのです。
何を論じるべきか、その為にどんなエビデンスが必要なのか? 簡単に情報収集できる時代であるからこそ、それを取捨選択する能力が問われてくるでしょう。
まとめ
これまで、クリティカル・シンキングとはなにか、そして、なぜクリティカル・シンキング学ぶ必要があるのかを長々と説明してきました。「もう分かったよ」と聞こえてきそうですが、そうであれば本望です。しつこいと思われるくらい重要な思考法だと私は思っています。「やばいな!これはやらないと」と思ってもらえたら更にうれしいです。
それでは最後にまとめとして、クリティカル・シンキングを身に付けた未来にどんなことができるようになるのかピックアップしておきます。
1.前提や常識の変化に、何が変わるかを自分で見出せる
2.行動や意識決定に繋がるよう、素早く適切に考えられる
3.溢れた情報の中から、効率的に適切な情報を選択し、適切に解釈できる
4.人に伝わりやすく、人を動かしやすい、適切なコミュニケーションができる
このようなことができるようになりたい人は、是非一緒に学んでいきましょう。
次の記事からは、実際にクリティカル・シンキングをいくつかのステップに分けて説明していきたいと思います。クリティカル・シンキングの記事を全て読み終わるころには、上で説明した4つの項目に少しでも近づけるようになっていたらうれしいです。
それでは取り組んでいきましょう^^/
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